極楽戦争 - End of End

著・富士見永人

第一章「極楽地獄」



 いやだ! 死にたくない!
 こんなところで死んでたまるか、とぼくは心の中で必死に叫んだ。もがいた。諦めるなんてごめんだった。ぼくは死ぬためにここに来たんじゃない。もしかしたら応援が間一髪でやってくるかもしれない。別働隊の麗那先輩や玄人先輩、響ちゃんが現れるかもしれない。あきらめるな、希望を捨てるな、勝手に終わらせるな、最後の最後まであがき続けろ!
 だが、現実は非情だった。
 蒼天音は、そのまま一歩踏み出し、夢葉の首めがけ、その刀を容赦なく一閃した!

 どつ、と、刀としては妙な音が響きわたった。

 首に刀を受けた夢葉はそのまま意識を失い、その場に天音に向かって倒れこんだ。夢葉の首はまだつながっており、首元に赤い棒状のあざができていた。
 峰打ち……?
 《殺し屋》とまで呼ばれた蒼天音が、敵に情けをかけた、と? わけがわからない。
 蒼天音はそのままもたれかかった夢葉の脇の下に自分の腕を通し、支えた。右手に血塗ちまみれの刀をたずさえたまま、奥にいる鈴子を一瞥いちべつした。鈴子は怯えた眼をしてただ震えているだけで、完全に戦意を失っているのは明らかだった。学園の狂犬も、腕と武器を失って百パーセント殺される戦いを挑むほど無謀ではなかった。
「ふん」
 怯える鈴子を尻目に、蒼天音は夢葉を肩に担ぎあげて装甲車の外へ出た。それを確認した赤月瑠璃が、ぼくへの攻撃を継続したまま指示を出した。
「天音さんはそのまま彼女を連れてB班との合流ポイントへ向かってください。零路さんはあと一分だけ我慢して下さい。私たちも撤収しますので」
「まじでえ。俺そろそろやばいんだけど」
「我慢してください」
 終零路は血塗れの顔で言ったが却下された。顔を流れ落ちる何本もの血液のラインが、アメリカ国旗を彷彿ほうふつとさせる赤い縦縞模様を作っていた。が、相も変わらず元気に斬馬刀を振り回している。本当に彼は人間なのか。酉野先生の右手の鋼拳が破壊され、血塗れの手が露出していた。《人割り》の度重なる攻撃に耐え切れなかったのだろう。

 そのまま増援もこないうちに一分が経過してしまった。赤月瑠璃は相変わらず無表情のまま両切刀を振り回し、ぼくを攻め続けながら終零路に指示を出した。
「そろそろいいでしょう。零路さん、撤収しますよ」
「あー。やっと終わったあ」
 赤月瑠璃は全身にところどころ裂傷を負ったぼくを放置して、終零路とともに林の中へと消えていった。ぼくは、ほとんど反射的に彼らを追っていた。もちろんぼく一人であの化物たちを倒して夢葉を連れ戻せるなんて思ってはいなかったが、夢葉が連れていかれた先だけでも知っておきたかった。考えてみれば無茶な話だったが、寿が死に、夢葉を連れ去られたことでぼくは完全に冷静さを欠いていたのだろう。
「やめろ! 深追いするな、円藤!」
 酉野先生が叫び、ぼくは我に返った。
「でも……」
「秋月の救助が先だ!」
 神楽先輩は装甲車の入口付近で刺された腹を抱え、がくがくと痙攣けいれんしていた。
 噴き出した血で、彼女の周囲は血に染まっていた。
 
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