極楽戦争 - End of End 著・富士見永人

 第三章「天道是非」

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 あの後、ぼくらは三人まとめて拘束された。
 大和十三の侠気おとこぎに免じて、というよりはおそらく、情報源として拷問にでもかけるために、生かしておいたのだとぼくは考えていた。
 ぼく自身も青龍学院の学ランに身を包んでいたせいか(そして日ごろ学園で影がうすいことも手伝ってか)、あの忌まわしい牢獄に帰還するはめになってしまった。おそらくこれからぼくの生存が谷垣に知れ、しかも大和や赤月と行動を共にしていたことがばれて、スパイ疑惑はますます濃厚にというかもう確定だろう。これは本当にまずいことになった。
 これじゃ、せっかく母が学園内で生きていたとしても、ぼくの離反のせいで殺されてしまうかもしれない。ぼくの命に免じて母さんの命だけは助けてくださいとでも言って許しを請うか? いくら何でも、今回ばかりはごまかしがきくとは思えない。
 ぼくは完全に恐慌状態に陥り、睡眠も満足にとれなかった上、食事もまともに喉を通らなかった。肉料理なんて見た日には、あの生きたまま《解体》された月野の姿が蘇ってきて吐き気がしてくるほどだった(というか吐いた)。
 意識は日に日に朦朧もうろうと、起きているわけでもなければ寝ているわけでもなく、ただ拘置所の中でぼけーっと過ごすだけの日々が、しばらく続いた。
 面会には誰も来なかった。面会自体できないのか、それとも単にぼくの生還を誰も知らないのか、それはわからなかったが。ぼくはあまり自分から友達を求める人間ではないし、誰かに依存しながら生きていくのはごめんだけれど、こういう辛いときには家族や友人がそばにいてくれるだけでどんなに助かるか、と、今では素直にそう思う。ただ胸を貸してくれるだけで、この辛い気持ちを少しでも理解してくれるだけで、今よりはずっと楽になれるであろうことは容易に想像できた。
 外では、いま何が起きているのだろう。
 なぜあのタイミングであの場所に、帝一派の《人間兵器》火馬力也が現れたのか。彼は《標的》を見つけられなかった、と言っていた。《標的》とは誰だ? まさか母さん? いやいや、母さんのような非戦闘員をわざわざ彼のような破壊王が仕留めに来る理由がない。となると、隣に住んでるけんさんか?
 赤鳳隊のメンバーである乾さんがあのアパートで母の面倒を見ていることを司令部が突き止め、抹殺しに行ったというなら説明がつく。あそこには他の《赤》の連中も出入りしていたようだったし、敵が乾さんひとりだけとは限らないから、彼のようなクラッシャーを差し向ける合理的理由ができる。しかし、その場合《標的》がいなかった、つまり乾さんはあのアパートにはいなかったということだ。ひとまず乾さんに関しては心配ないだろう。
 問題は母さんだ。
 そもそも、ぼくは先の任務で死んだ扱いになっているのか。もしそうなら、学園が母を拘束しておく理由はない。ただちに解放するだろう。麗那先輩は夢葉を死んだことにしようとしていたみたいだけれど、ぼくもそうなっているのだろうか。夢葉は学園では死んだことになっているのか。それはわからない。何もかもが、わからない。

 ぼくは、いつまでここにいればいいんだろう。
 いつまでこんなかごの中で、ひとり苦しめばいいんだろう。
 なぜ運命というやつは、ぼくにこうも辛く当たるのだろう?
 きっと運命の神というのは、どうしようもないサディストなのだろうな、と、ぼくは思った。
 天道是非。サブタイトル回収。
 

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