極楽戦争 - End of End

著・富士見永人
第五章「赤」


 今作戦の目標は、青龍学院の最高指導者・校長を含めた《継戦派》首脳陣の抹殺もしくは無力化である。
 青龍学院内の《協力者》から入手した情報によると、校長は年に何度か反乱軍系の姉妹校の行事や教育委員会に出席するため、極楽市外へ出張に出かけるらしい(なお、この情報を入手してくれた大和と赤月の旧友はスパイ容疑で殺されてしまった)。校長に関しては、白虎学園と全面戦争継続中のため厳重警備の青龍学院に殴りこんで抹殺することは難しいので、出張を狙う。ここでも厳重な警備が予想されるが、本拠地にいるところをたたくよりはましだろう。
 護衛の車を何台も引き連れて、市外の学校へ出張講演に向かう青龍学院の校長を、ぼくや乾さんのいるA班と、市外から駆けつけてくれた赤鳳隊の増援部隊からなるB班、C班の計十人ほどで襲撃する。事前情報によると校長の車(少し古い型のジャガーXJのようだ)は防弾仕様の特注品で、ぼくらの軍用車に搭載されている軽機関銃でも穴を開けるのは難しく、他の護衛の車も校長のジャガーほどではないにせよある程度の防弾性能はあるらしい。全面戦争の最中、戦闘ヘリまで所持する帝の私兵団にでも出くわしたら命が危ういのでさすがに警戒は厳重である。
 一瞬のうちに体中に風穴を開け、血煙ちけむりを噴出しながら踊り、赤い水たまりの中に沈んでいく学生服の少年少女たち。
 蹂躙じゅうりん。そう呼ぶに相応しい、戦とは呼べないほど一方的な殺戮さつりくショーが、ぼくの眼の前で展開されていた。
「何やってんの。刀抜いてるんだからさっさと撃ち殺さないとだめよ」
 ふっ、と、銃口から立ちのぼる硝煙しょうえんをひと吹きし、冷笑を浮かべた三城こと霧崎幽美が、ぼくと乾さんをなかばあざける口調で言った。彼女は慣れた手つきですばやく銃のマガジンを交換した。
 校長は本日極楽市の北に位置する春日かすが市の反乱軍系軍事学校・玄武げんぶ学院へ出かけるが、彼が春日市へ行くには日出川ひづがわを渡っていかなければならない。ルートはいくつか考えられるが、日出川を越えるには当然橋を渡っていかなければならず、長引く戦でいくつかの橋は破壊されてしまったため、現状青龍学院の領地で車で通ることができるのは納谷橋なやばしただひとつ。もちろん青龍の校長も馬鹿ではないので、必ず橋の警備は強化してくる。しかし現状そこをたたくのが一番確実なので、ぼくたちは納谷橋の警備を駆逐し、校長を迎え討つことにした。
 戦闘は火力という言葉がある。いくら宮本武蔵のような剣の達人だろうが、よってたかってマシンガンで蜂の巣にされたらひとたまりもない。最強とうたわれた武田の騎馬軍も信長の鉄砲隊には勝てなかった。
 霧崎の手には古びた拳銃……よりはもうひと回り大きい、筆箱のような長方形の金属製の箱にグリップをつけただけの無骨なサブマシンガン、イングラムM11が握られていた。
 彼女だけではない。同じ班のぼくと乾さんも、同じ銃を装備していた。
 秒間二十発という驚異的なスピードで鉛弾の嵐を吐きだすその小さな怪物の前では、いかに青龍学院のつわものたちとて赤子同然であった。白虎学園においてもマシンガンの使い手は稀少で、《特権》の連中か、その側近のみであった。本体だけでもばかみたいに高価たかいのに、弾代を湯水のように消費する大飯喰らいを下層の連中が持てるはずもない。
 ではなぜそんなものを万年金欠病である赤鳳隊が持てるのかというと、実は最近になって赤鳳隊にスポンサーがついたという話を聞いた。詳細はトップシークレットなので知らされてはいないが、ぼくは夢葉が絡んでいるんじゃないかと考えていた。彼女は帝家に匹敵する名家・東陽財閥の令嬢だ。何らかの方法で家族と連絡を取り、うまく口車に乗せて(あるいは騙して)協力を得ることは充分可能である。あるいはまた別のコネを使ったのか、はたまた彼女のポケットマネーか、それはわからないが。
 とにかくそれで豊富な軍資金を得た赤鳳隊には、高価な兵器や銃火器が次々に導入されていった。乾さんが赤月みたいな接近戦の達人にまで射撃を指南していたのは、そういう意図があったからだろう。
 今回の任務を遂行するにあたり、かつての大和や赤月の恩師であり、青龍学院《停戦派》の筆頭である三学年主任・和泉いずみと仲間たちの手を借りて、校長の車にこっそりと発信機を仕込んである。標的の行動は手にとるようにわかる。あとはイングラムの集中砲火で殲滅するだけの簡単なお仕事です。
「来た。あの車だね」
 まだ遠くて豆粒のように小さい黒いふたつの点が、かなりのスピードでこちらに接近してくるのが見えた。ぼくたちが待機している納谷橋の少し手前で、校長車と他の護衛車を分断、あわよくばその場で殲滅するべくB班とC班が待ち構えていた。青龍学院の《協力者》が事前にくれた情報によると護衛の車は四台とのことだったが、B班とC班がうまくやってくれたのか、一台だけだった。それも機関銃による襲撃で窓ガラスがひびだらけになっている。
「くそ。自分だけ高価たかそうな車に乗りやがって。セレブ気取りか。むかつくんだよ」
 乾さんがむき出しの本音をそのまま吐露とろした。歯にきぬ着せぬ物言いは相変わらずだった。そして憎悪をこめるように軍用車の機関銃をかまえ、ぼくと霧崎も手持ちのイングラムを構えた。
 十二・七ミリ弾と九ミリ弾がみぞれのように入り混じった弾丸のシャワーが、無慈悲に、容赦なく、青龍学院の最高指導者ようするジャガーと、その護衛車(黒塗りのベンツだった)に、横殴りに降りかかった。
 ぼこべこばこべこ。
 校長車と護衛車双方の車体に無数の小さなクレーターが、窓ガラスには無数の亀裂が刻まれた。しかしさすがは防弾仕様というだけあって、乗員に致命的なダメージを与えるには至らないようだった。
 だが、そこまでは想定の範囲内だ。
「やっぱこいつの出番か」
 乾さんが引き金のついた大きなラッパのようなものを肩に乗せ、構えた。その最後尾にはマウスピースの代わりにうぐいす色の大根のような無骨な鉄塊が添えつけられていた。
 RPG7。旧ソ連の開発した対戦車用ロケット弾であった。
 比較的安価で簡便かつ高威力のため、途上国の軍隊やゲリラなどをはじめ、世界各地の武力紛争で広く用いられる。当然我が国も例外ではない。
 乾さんが無言で発射器のトリガーを引くと、先端の大根がロケット噴射とともに急加速、校長のジャガーめがけて一直線に飛翔した。
 いくら防弾仕様の車と言えど、対戦車用ロケット弾をまともに受けたらひとたまりもない。
 が、乾さんがまだ扱いに不慣れだったせいか、弾頭は車体中央ではなく、後方のトランク部分に当たって炸裂した。
 それだけでも校長の車を止めるには充分すぎるほどで、後ろ半分が大破したジャガーXJは前のめりにつんのめるようにふっとび、横転し、轟音ごうおんとともに街路樹に衝突し、その機能を停止した。後ろの護衛のベンツも爆風にあおられて片側二輪走行の状態でガードレールに衝突した。
「今だ。たたみかけるぞ」
 乾さんがそう言う前に、霧崎は軍用車の機銃で校長車と護衛車に十二・七ミリ弾のシャワーをおみまいしていた。ぼくと乾さんもすかさずイングラムを発射した。
 大破した隙間部分を狙って、時間にしておよそ十数秒程度、計数百発にもおよぶ鉛弾の豪雨を浴びせ続けた。
 そのままガソリンに引火してくれれば車ごと木っ端微塵に大破して確実にジ・エンドだったが、防弾車ともなれば当然ウィークポイントであるエンジン周りも頑強に作られている。事実、校長のジャガーも護衛のベンツも車の形こそ変わったものの、炎に包まれることはなかった。校長の死体を確認し、必要ならとどめを刺さなければならない。
「殺った……のか?」
 乾さんが双眼鏡を覗きこもうとしたとき、軍用車の窓にいきなり蜘蛛くもの巣状のひびが入り、一瞬遅れてたーん、という撃発音が聴こえた。
 敵の反撃を受け、ぼくらはすぐさま軍用車の後ろに隠れた。
「くそったれ。しとめ損ねたか」
 苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、乾さんがぼやいた。

「あーあ。ひどいなあ」

 その声を耳にしたとき、ぼくの心臓の鼓動が急激に、高鳴った。
 聴き憶えのある、印象的なソプラノボイス。
 ぼくのかつての先輩であり、想い人でもあった、麗那先輩の姿が、そこにはあった。
 
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