極楽戦争 - End of End 著・富士見永人

 第六章「最終戦争」

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 翌日、ぼくたち赤鳳隊は青龍学院のサポートの下で白虎学院に急襲をしかけた。
 ぼくたちから少し離れた白虎学園の敷地の正門で青龍学院の大規模部隊が総出で砲撃。白虎学園も負けじと銃弾砲弾雨あられの猛攻で応える。瞬く間に白虎学園全体が戦場と化していく。
「では、私たちも行きましょう」と、赤月が言った。
「了解。ルリルリ隊長」ぼくは頷いた。
「待ちくたびれちゃったよ。もー」
 麗那先輩が大きく伸びをして、背負っていた大薙刀を抜いた。新しく青龍学院から支給された業物わざもので、これならあのサイボーグ三星の鋼鉄の装甲が相手でも砕けない。かもしれない。
 ぼくたちの任務は、青龍学院の部隊が敵を引きつけているうちに敷地の裏側から侵入し、帝陽輝と不愉快な仲間たち擁する帝ビルの裏側に位置する軍事基地を急襲しつつ、そのまま中に侵攻して彼らを討ち、中にいる夢葉を奪還することだ。霧崎の情報によると、帝を含めた特権と上層の一部の連中は、青龍学院と全面戦争の真っ最中にもかかわらず頻繁にパーティを開催しているらしい。聞いてて胸くそ悪くなったぼくはぺっとたんを吐き捨てた。胸の内で。
 夢葉の所在は白虎学園のごく一部の人間だけが知っていて、霧崎が確認した時点では帝ビルの最上階の一室に幽閉されているようだった。今や白虎学園の学園長まで上りつめた帝もだいたい帝ビルの最上階でふんぞり返っているらしいので一石二鳥である。
 赤月が重そうに対戦車用ロケット弾RPG7の弾頭を、軍事基地に停めてある戦闘ヘリ(おそらく八坂が江口先生を葬ったときに使用していたにっくき悪魔の兵器)に向けて射出。周囲にいた見張りごと木端微塵こっぱみじんにふっとばした。
 それを皮切りに、ぼくを含む数十人で自動小銃AK47を発砲しながら突撃する。
「うおおお」
「どりゃああ」
「死ねええええ」
 しかし敵も間抜けではなく、青龍学院の陽動部隊に兵力を割いているとはいえ、兵器がわんさかと置いてあるこの軍事基地にも多少の兵員は残していたようで、彼らも負けじと自動小銃やら機関銃やらで反撃してくる。辺りはたちまち無数の銃弾が飛びかう戦場と化した。
「思ったよりも数が多いね」と、麗那先輩がささやいた。
迂回うかいしましょう」と、赤月が提案した。
「うーん。たぶん、大丈夫だと思うよ。まあ見てて」
 麗那先輩はそう言うと、右手に大薙刀、左手にイングラムを持ち、弾丸の雨の隙間をうようにして軽快に駆けぬけ、敵の死体や遮蔽物をうまく利用して接近し、次々に白虎学園の兵士たちをほふっていく。彼女の超人的な反射神経と身体能力を前にしては、たとえマシンガンで武装した兵士たちですら相手にならなかった模様。そのあまりの人間離れした動きに、ぼくも赤月も言葉を失っていた。彼女がどこかの秘密結社に改造されたサイボーグだという噂は本当かもしれない。
 そのまま彼女は装甲車の脇まで駆け、大薙刀を操縦席の扉の窓に向かって思いきり突きたてた。
 大薙刀のぶ厚い刃は防弾ガラスをもぶち破り、フロントガラスに赤い花を咲かせた。操縦席では首を横から串刺しにされた大柄な白虎学園の男子生徒がぐええと呻き、絶命した。
 そして麗那先輩は割れた窓の中に左手を突っこみ、操縦席全体にイングラムの九ミリ弾をばらまく。中にいたもうひとりの女子生徒がたちまち穴だらけになってシートを赤く染めあげた。
「今そっちに行くよー」
 装甲車に乗りこんだ麗那先輩が、血まみれの操縦席でこちらに手を振っていた。満面の笑みで。ものすごく怖かった。彼女が味方で本当によかった。
 しかしギアを間違えたのか、彼女の乗った装甲車は後ろ向きに急加速し、背後の網フェンスを突き破って木に激突した。
 あの無敵の麗那先輩でも車の運転は下手だったらしい。意外な欠点。
 そしてすぐに装甲車が今度は前に急加速し、こちらに向かって突っこんでくる!
「ちょっ、麗那先ぱ」
「逃げま」
 ぼくと赤月はそれぞれ左右に跳び、周囲の敵味方問わず弾き飛ばしながら暴走する装甲車をかろうじてかわした。直前でブレーキをかけたのか、装甲車はスピンし、さらに多くの兵たちを巻き添えにしながら停車した。
「くそ。薬でもキメてるのか、この女」
 味方の青龍学院の男子生徒がぼやいた。
「ほら、早く乗って」
 操縦席を開けてぼくたちをいざなう麗那先輩。
「死ぬかと思いましたよ」
「あー、ごめんね。ブレーキかけたらすぐ止まるかと思って」
 この人に運転免許を与えてはいけない。
 彼女に代わって運転席に座りこむぼく。そして反対側の扉を開けて赤月が乗りこんできた。死にかけたにもかかわらず無表情だった。
「入口めがけて突っこみますよ。しっかりつかまっててください」
 ぼくがそう言ってハンドルを握りしめると、麗那先輩はぼくに抱きついてきた。シャンプーのフローラルな香りと血の匂いが交互にぼくの鼻腔びくうを刺激する。
「何してるんですか」
「何をしているのですか」
 ぼくと赤月は同時に言った。
「いや、つかまるとこないから」
 ぼくが運転席に、赤月が助手席に、そして麗那先輩はその間に無理矢理座っていた。
「じゃ、じゃあシートベルトすればいいじゃないですか」
 動揺のあまり、ぼくは噛みながらそう言った。
「わかってるって。ちょっとからかっただけじゃん。縁人くん反応面白すぎ」
「任務中ですよ。紅さん。装甲車の中だからって油断しすぎです」
 赤月が抑揚のない声で言った。
「なーに、ルリルリ。いてるのー?」
 麗那先輩がルリルリこと赤月のほっぺたをつんつんと突いた。
 何このラブコメみたいなやりとり。
 ぼくはもしかして自分が夢の中にいるんじゃないかと思ってほおをつねってみたが普通に痛かった。どうやら現実らしい。
「行きますよ。もう」
 しびれを切らしたぼくはアクセルをべた踏みし、装甲車を急加速させた。勢いをつけた車はそのまま基地のフェンスを突き破り、何人もの白虎学園の生徒たちを弾き飛ばし、帝ビルの入口の強化ガラスの扉をものともせずに突破した。
「きゃあ」
「うわあ」
 中にいた数十人の帝派の生徒たちが発砲してきたが、こちとら装甲車なのでまったく意に介さず、ぼくは彼らを轢殺れきさつすべくフロア内を縦横無尽に走りまわった。
「いやーっほおおおおおう」
 ボーリングのピンのように面白おかしく飛んでいく生徒たちを見て、ぼくは思わず叫んだ。戦場で人を殺しすぎてとうとう頭がおかしくなってしまったと読者の皆様方はお思いかもしれないが、戦場ではいったん倫理をごみ箱にぶちこんで頭のネジを外していかないと、いざというときに躊躇ためらいが生まれて死ぬことになる。
 フロア内のほぼすべての生徒を蹂躙じゅうりんしたぼくは、ようやくフロアの中央にある三つのエスカレーターの手前でブレーキを踏み、急停車した。
「いい殺しっぷりだね。縁人くん」
 麗那先輩がぼくに向かってウインクし、親指を立てた。ぼくも何も言わず親指を立てた。何もかもが狂っていた。でもそれが戦場だ。
 ぼくたちは装甲車から降り、動作が停止したエスカレーターを駆けあがった。
「そこまでです」
 わらわらと群がる、人の群れ。
 星野と千代野を先頭に、五十人を超える白虎学園の生徒たちが二階でぼくたちを待ちぶせしていた。
「ハロー。エブリワン」と、ぼくは陽気な声で言った。
「武器を捨てて両手を上げなさい。そうすれば命だけは保証しましょう」
 星野が冷たい声でそう言い、右手を上げると、背後の生徒たちが一斉に銃を構えた。
「ここまで……か」
 ぼくはため息をらした。
「言うとおりにしましょう」
 赤月が持っていたAKを床に捨てた。
 続けて、ぼくと麗那先輩も武器を床に置いた。

 どかーん。

 唐突に、帝ビルの上の方から爆発音が聴こえ、建物がかすかに揺れた。
「何です。これは」
 星野が狼狽うろたえた様子で天井を見あげた。
「うまくやってくれたかな」
 ぼくはしたり顔でそう言った。すぐに上からドンパチやりあう音が聴こえ、星野はふたたびぼくに向き直ると、悔しそうに歯噛みした。
「彼らはおとりです!」
 星野がそう叫ぶと、彼の部下の半数以上が奥にある三つのエレベーターへと向かった。

 どかーん。

 彼らが乗ったエレベーターが盛大に爆発した。
 秋月大和あきつきやまとと、言ったか。隣町の赤鳳隊支部から応援で駆けつけてくれた、爆弾のスペシャリスト。
 乾さんや大和十三とともに先に潜入した彼は、どうやらうまくやってくれたようだった。
「味な真似をしおって」
 星野がぎりぎりと歯ぎしりしながらぼくに銃口を向けた。王子様ともてはやされたその甘いマスクは怒りでしわくちゃに歪められ、下衆そのものだった。写真に撮って女生徒たちに配りたい。
 半数以上が爆殺されたとは言え、まだ敵は二十人以上残っており、全員拳銃やマシンガンで武装していた。さすがに帝の兵隊だけあって装備がいい。
「何かいいアイデアある? 縁人くん」
「麗那先輩こそ」
 ぼくが訊き返すと、麗那先輩は肩をすくめた。いくら彼女が無類の強さを誇ると言っても、二十数人もの兵士に一斉に銃口を向けられてはどうしようもなかった。
 さて、どうしよう。
 

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